Case 09

「自分自身の考えや希望をちゃんと理解することが大切」 日本で最初のフリーランス歯科衛生士 土屋和子の「UCHILA」

2016/08/12
日本初のフリーランスの歯科衛生士として活躍する傍ら、現在はセミナーやプライベートレッスンでの人材の育成、NLPと呼ばれる学問を歯科医療界向けにアレンジした「デンタルNLP®」の啓蒙にも力を入れている土屋さん。歯科業界の第一線で活躍する彼女にお話しを伺いました。

日本では前例がなかったフリーランスの衛生士

― フリーの衛生士、というのはどのようなきっかけで始められたのでしょうか?

アメリカのロサンゼルスに行っていた20代前半の頃、現地で出会った優秀な衛生士さんはみんなフリーだったんです。それがフリーになろうと思った最初のきっかけですね。日本の衛生士は、さまざまな雑務も業務のひとつですが、アメリカの衛生士は衛生士の仕事しかしません。プロフェッショナルとして完全な分業制になっているわけですね。そんな側面から、アメリカではフリーの衛生士が生まれたのだと思います。

― なるほど。しかし、前例のない日本でフリーの衛生士を始めるのは大変だったのではないでしょうか

私がフリーランスになったときは、自分が目標としたフリーランスと世の中のフリーランスへのイメージは大きく違っていたんです。アルバイトとパートとフリーランスはどこが違うの? みたいな感じで。私は『プロフェッショナルなハイジニスト』を目指していたんです。自分のやりたい仕事だけをやるわけじゃなく、ましてや時間制で働くようなものではなくて、きちんとした結果を出せる衛生士になりたかったのです。自分の口で「私はフリーランスDHです」って言えるようになったのは、実は40歳近くになってからなんですよ。10年以上は自分のことをフリーランスとは言えなかったですね。なんだか恥ずかしくて。

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― まずはフリーランンスに対する正しい認識を啓蒙する必要があったわけですね。

現在でもまだまだ周知されているとは言い難いですけどね。パートで何軒かの医院で働いているだけでフリーランスと自称する人もいますし。フリーランスは色々な場所を自由に転々としているイメージがあるかもしれませんが、そんなことはないんですよ。私がいま担当している医院の中で、一番長い場所だと20年近く働いています。20年近くいれば、もう古株ですよ。

時代によって変わってきた衛生士

― 地元、神戸のイメージをお聞かせ下さい。

神戸のいいところは、海と山が近くて自然が豊かな点と、華やかでクリエイティビティ溢れる部分ですかね。逆に悪いところは、少し保守的な部分ですかね。新しい事に対する反発が起きやすいところはあるかもしれません。フリーランスを始めるときもやはり逆風があったので、それが関東に来た理由の一つでもあります。とはいえ、やはり地元は好きなので、神戸生まれであることに誇りを持っています。

― 衛生士としてのキャリアが長い土屋さんですが、土屋さんが衛生士を始めたころと現在では、何か歯科業界に違いはありますか?

私が衛生士になったころはキャリアを求められなかったですし、むしろ逆に邪魔になるくらいでした。寿退社推奨といった空気がありましたね。昔は23、4歳くらいが結婚適齢期と言われていたので、若い娘が入れ替わりで出入りするのが当然となっていましたね。ある意味使い捨てのような感じです。若くて見栄えのいい娘が重宝されていました。

― 今でいうアルバイトのような感じですね。

そうですね。でも今の世の中は、結婚に対しての意識や女性が働く事に対しての認識が昔とは変わってきているので、キャリアの長い衛生士さんも増えてきています。人生経験を積んでいるほうが、患者さんとのコミュニケーションもとりやすいですし。

自分自身との対話と、他者とのコミュニケーションを学ぶ「デンタルNLP®」

― 土屋さんが提唱する「デンタルNLP®」について詳しく教えて下さい。

「デンタルNLP®」というのは、歯科・医療界においても大切なコミュニケーション能力を高める方法です。技術や知識があっても、患者さんとのコミュニケーションがうまくいかなければ、いい歯科医や衛生士とは言えません。また、「デンタルNLP®」では他人のコミュニケーションだけでなく、自分とのコミュニケーションも重要だと考えています。

― 自分との対話、ということでしょうか。

コミュニケーションというと、他人とのやりとりを想像するかと思いますが、そのまえにまず学ぶべきことは『自分とのコミュニケーション』なのです。自分がどういう人なのか、何を望んでいるのか、そういうことを他ならぬ自分自身が理解していない人が意外と多いものなのですよ。例えば、今の仕事が自分に合っているのか不安になったり、仕事場での人間関係が上手くいかないと苦しんだり。そういう悩みは、他人との関係性よりも、自分自身の意識や思い込みが原因であることが多いのです。ですから、「まずは自分自身とちゃんと向き合いましょう」というのが「デンタルNLP®」の考え方です。

― 自分自身との折り合いのつけ方と、他人とのコミュニケーションの両方を学ぶということですね。

歯科医院という場所は、人数が少ない職場が多いんですね。そこに閉塞感を感じてしまうと、仕事もつまらなくなるし、人間関係が原因で辞めてしまったりするんです。つらいと感じている人に、楽しむことを探していたかと聞くと探していなかったり、楽しみ方を探す方法すら分からなかったりする。20代というのは基礎を固めなければいけない時期なのですが、その職場に不満を抱いていると、そこから逃げることしか考えない。結婚とか子供作りを考えて気持ちが揺れがち。そこをはっきりさせることが大事です。自分の事を自分で理解することが大切なんです。

自分を縛る「思い込み」は捨てるべき

― 今の仕事でのやりがいはどんな点ですか?

やりがいというより、ここまでくるとミッションに近いですね。使命感が原動力とでもいいましょうか。今の若い人たちが長くこの仕事を楽しめるように手助けをしたいと思っています。私自身も自分が60代になってまで衛生士をしていると思いませんでした。いまや自分の大事な居場所のひとつです。若い人たちにも、歯科業界という場所が自分の居場所だと誇れるようにできたらいいと思います。

― 学生のうちにしておいたほうがいいことは何かありますか?

就職してしまうと、どうしても時間が制限されてしまうので、出来るだけ遊んで欲しいと思います。「できない」って先入観を持たずに、様々なことにチャレンジしてほしいですね。デンタルNLP®の中で引用している「サーカスの象」というたとえ話があるのですが、ご存知ですか?

― いえ、知らないです。

象は体も大きいし力も強いですよね。そんな象が小さな杭と鎖で繋がれている。さて、なぜ象は逃げないのでしょう? という話です。なぜかというと、サーカスの象は子供の象を育てながらしつけるんです。まだ力のない子供のころに杭が抜けなかった経験から、大人になっても同じように杭が抜けないと思い込んでしまうんです。

― おもしろいたとえ話ですね。

思い込みが自分を縛っていることがある。そういうことに若いうちから気付いてほしいですね。人は経験をすればするほど、思い込みはどんどん増えていきます。もし思い込みが自分を制限しているなら、絶対に手放したほうがいいと思います。

― では最後に、若い歯科衛生士や、これから歯科衛生士を目指す人にメッセージお願いします。

やりがいのある仕事ですが、若いときに離職する人も多いです。仕事内容が面白くないとか、人数が少ない狭い人間関係にストレスがたまる等の理由が多いですが、そうならないためには、経営者やドクターと、いかにコミュニケーションをとっていくかが重要になります。ドクターの考えを知ることが大事なんです。自分がどういうことを求められているのか、どうすれば評価されるのか、お互いに理解しあえるようにしましょう。

このインタビューに答えた人

土屋和子

1957年兵庫県神戸市生まれ。日本初のフリーランス歯科衛生士として数々の診療室で勤務。現在は、3件の歯科医院に勤務。デンタルNLP®を広める株式会社スマイル・ケア、日本歯科医療人育成協会を設立し、歯科衛生士など歯科医療人に向けたセミナーを行っている。
株式会社スマイル・ケア HP
オフィシャルブログ

[ライター/今井辰実 カメラマン/ひらりい]

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